(こんなにも花は綺麗に咲いているというのに……)
花々を見渡しても、ミカエラの心は晴れない。
よく晴れた早朝、ミカエラは庭園にいた。
辺りに人影はない。
そこに居るのは、ミカエラと護衛騎士だけだ。
庭園は、いつもの静けさを取り戻していた。
昨日は大混乱に陥ったガゼボも、今は誰もいなくて平穏そうに見えた。
王太子が襲われた辺りも綺麗に片づけられていて、争った形跡もなく平和そのものだ。
(それはわたくしも同じね)
ミカエラは一晩中、痛みに苦しんだ。
にもかかわらず、朝になって目覚めてみれば何事もなかったかのように治っていた。
(まるで……呪いね)
ミカエラは思った。
愛の為と言えば聞こえは良いが、ミカエラにとっては呪いも同然だ。
自分の意思など関係ない。
いや。
王太子への愛がある、という一点だけを見れば、それはミカエラの意思なのだ。
しかし。
愛したからといって、全てを捧げることに同意したかと言えば謎である。
(わたくし自身、異能持ちだと知っていたら。もう少し、警戒したと思うの……)
とはいえ事前にこうなると知っていたら愛さなかったか、と問われれば答えには悩む。
恋には落ちるものだ。
ミカエラの意思でもってどうにか出来るものではない。
愛もまた、生まれてしまうものだ。
ミカエラの意思で制御できるものでもない。
(でも……苦しいだけの恋も、愛も、嫌なの)
どうしようもないと分かっていても、ミカエラの心にはモヤモヤとしたものが湧いてくる。
(愛は、もっと素敵でよいものだと思っていたのに……)
ミカエラにとっての愛とは、痛み。
アイゼルへの恋心は、あっという間に痛みに化けた。
ミカエラが感じているのは、彼の受けた傷や毒の被害を引き受けることによる痛みだけではない。
(令嬢方への嫉妬心も、わたくしには痛みだわ)
溜息をひとつ吐く。
(王太子殿下は、わたくしの異能をご存じのはずなのに)
感謝しろ、というのではない。
せめて嫉妬心に苦しめられるような行動は慎んで欲しいのだ。
それをミカエラから言うのは憚られる。
察して欲しい、と思うのはいけない事なのだろうか?
いけない事であったとしても、ミカエラはアイゼルに察して欲しかった。
(愛を返してくれ、とまでは言わないわ。わたくしを愛してと迫るのも違うと思うから。わたく